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番狂わせ <下>

角栄が行なったのは、電話作戦である。

北海道から沖縄に至る全国の知事・市町村長・正副議長・党三役・農協・漁協・商工団体そして地域のめぼしい企業のボス・・・そうした人々の住所・氏名・電話番号を幅1.5m×長さ20mに達する紙にギッシリと書き込ませた。

予備選が始まると、彼は午後からの来客を断り、執務室にテーブルを総動員して端から端までその長大な電話リストを並べさせた。

そして彼は靴を脱いでテーブルの上に立ち、赤鉛筆を持って

「××県の△△、番号は○○○○-○○-○○○○!」

と叫ぶ。 秘書の私は受話器を持ち歩き、ダイヤルを回して出た相手が本人かどうかを確認して「ただ今、田中と代わります」と言って、受話器を親分に渡す。

「オレだ。 お前は福田か? 大平か?」

とズバリ。 相手も口ごもる。

「そうか、福田か。 現職だからな。 しかし、大平が勝つよ。 


お前のところは3,000票ある。 四分六でいいから、大平にも回せ。」


「・・・・・・・・・。」

「あのなぁ、お前が2年越しに言ってた陳情、あの厄介なヤツ。アレ、昨日片づけたょ。」

「分かった、角サン」


と先方も答えたに違いない。

「よし、それでいい。 じゃあ、頼んだょ。」

ガチャン。 


「次、ええと、□□県の、※※。 番号は、◎◎◎-◎◎-◎◎◎◎!」


・・・この連続であった。 

         


夕食も店屋物を取り寄せ、夜9時まで電話をかけまくった。

これだけの票は間違いない。 千葉・神奈川が弱い。 こうしろ、ああしろ。

集票活動が終わると、彼はダブル・トリプルの水割りを口に流し込み、私にあれこれ指示した。

本来、角栄は人間に対して性善説を持っている。
しかし、こと選挙に関する限り彼は性善説に立たなかった。

フタを開けてみるまでは分からない。 寝返るかもしれない。

福田は最高権力者だ。 とにかく、30年の政治生活で知り合った大・中・小のボスに頼み込むしかない。

角栄は福井県鯖江市の眼鏡協同組合の専務理事にまで電話した。

影の総司令官が汗みどろで闘っていることを知り、田中派の国会議員・秘書団も奮起した。

そして肝心の大平派にも、熱気が伝わった。
選挙は常に総力戦である。 僥倖は有り得ない。

福田氏は大角連合の闘いぶりを知らなかった。

自ら〝世界のフクダ〟と称し、現職の力を過信して、敗北した。



              『駕籠に乗る人担ぐ人』(早坂茂三・著)より抜粋・編集にて
          ◆     ◆     ◆     ◆

思わぬ敗戦を喫した福田氏が残した、有名な


「天の声にも、時々変な声がある。」


というコメント・・・この裏話を知ると、実に味わい深いものがあります。


〝勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし〟

野村克也氏(※実際は江戸時代に肥前国平戸藩の第9代当主・松浦静山が遺した剣術所 『剣談』 からの引用) の名言として知られていますが、少なくとも選挙においては不思議の勝ちはない・・・勝利は自らの汗と努力で掴み取るものなのでしょう。

いや、それは選挙に限ったことではないのかもしれませんネ。うー

「奇跡は、起きるものではありません。 起こすもんです。」

『宇宙戦艦ヤマト2199』 最終話で真田副長が口にしたこの台詞・・・あらためて噛みしめたいと思います。





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