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恐怖の商談 <中>

「おぅ、それで保険に入れば、オリンピック行けるんだって?」


ソファーに座るなりそう聞かれ、「あっ、はい。 それでこの保険は・・・」 と上ずった声で説明しようとする私を遮るように、 A社長は言葉を続けます。


「余分な説明は要らねぇよ。 


オレはオリンピックに行ければそれでいいんだ。 


女房と二人で申し込むから、契約書作ってくれョ。」


聞けば、社長も奥様も在日2世。 


オリンピックを見がてら、どうしても祖国の土を踏みたいのだとか。


「そうでしたか・・・分かりました。 では早速書類を作りましょう。」


そう答えた私はカバンから申込用紙を出して、必要事項をA社長から聞きながら記入していきます。


本当は契約者本人に署名してもらうべきなのですが・・・A社長の話を聞いている最中、あわただしく若い〝社員〟が 「組長!」 と言って部屋に入ってくるなり、


「客人の前では社長って言えっ、バカヤロウ!!」


「すみません、社長。 ちょっと○○組のヤツらが電話でグチャグチャ言ってるんですが、どうしやしょう?」


「だから客人の前でそういう話をするなってんだ。 すっこんでろ!」


「へ、へい。 すみません。」


目の前でそんな会話を聞かされたら、とてもじゃないですけど 「自分で書いてください。」 なんて言えるわけもなし。 


    計約


(契約書にハンコをもらって、一刻も早く事務所を出なきゃ!)


内心焦れば焦るほどペンを持つ手に力が入り、震えて字がうまく書けない私。


「おいおい、どうした。 何ビビッてんだ?」 


なんて見透かされないか、気が気ではありませんでした。 


この時、初めて喚問で国会に呼び出された証人の気持ちが分かった私・・・。


ぎこちない字で申込書を書き上げ、A社長から捺印をもらって手続きは完了。


「それでは失礼します。」


と内心ホッとしながらドアに向かって歩き出したその時・・・私の後ろから、突然A社長の声が。


「ちょっと待ちな。 ひとつ聞き忘れてたことがあった。」


「えっ? な、な、何でしょうか?」


「女房の両親は〝北〟の出身なんだけど・・・それでもソウルに行けるょナ?」


・・・え゛っ? うー


         ・・・・・To be continued


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