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巨 人

明日 『文化の日』 に、皇居で贈呈式が行われる文化勲章。


過去約400人の方が受賞されましたが、中には大江健三郎氏のように受賞を辞退した方がいらっしゃいます。

そして史上唯一、一旦受賞しながら後に返上した方がいるのをご存知でしょうか?

今日は、そのジャーナリスト・歴史家・評論家にして貴族院議員を
も務めた

 徳富 蘇峰

の命日・没後60周年にあたります。


       


 


蘇峰(本名:猪一郎)は1863(文久3)年に現在の熊本県上益城郡益城町に生まれました。

徳富家は代々惣庄屋と代官を務めた家柄で、父・一敬は肥後実学党の指導者として藩政改革及び初期熊本県政に携わった肥後有数の思想家でした。

その父の長男として育った蘇峰は、熊本洋学校に学んだ後、1876年に上京し東京英語学校に入学するも、半年後には京都の同志社英学校に転入。

ここで創設者・新島襄に洗礼を受けキリスト教徒となり、言論で身を立てる決心をしたとか。

しかし1880年に学生運動に巻き込まれて同校を卒業直前で中退した彼は、東京で新聞記者になろうとしたものの叶わず、1881年に帰郷して民権結社・相愛社に加入し、自由民権運動に参画。

翌年に父親と共に私塾・大江義塾を開き、歴史・政治・経済を若者に教えると共に、
『将来之日本』 などの書籍を刊行。


その華麗な文体が高い評価を受けたため、蘇峰は東京に転居し論壇デビューを果たすと、1887年2月に言論団体 『民友社』 を設立し、月刊誌 『国民之友』 を主宰。

大同団結運動を支援する傍ら社会主義思想を紹介する一方、『文学会』の発会を提唱するなど、先進的な存在に。

そして1890年2月、国民新聞社を設立して 『国民新聞』 を発刊。

1942年に廃刊するまで、明治・大正・昭和時代にまたがってオピニオン・リーダーとして多くの読者に親しまれました。


(しかし同新聞社は1905年にポーツマス条約締結を支持した時と、1913年に発足した第3次桂内閣を支持したことで、2度襲撃を受けています。)


       

また鋭く政府を批判する一方で、1897年には松方内閣の内務省勅任参事官に就任したり、1911年には桂太郎首相の推薦で貴族院議員に勅任されて政界入りしたことで、変節ぶりを批判されたことも。

桂首相の死を期に政界を引退した蘇峰は、再び言論界へ。


56歳になった1918年に 『近世日本国民史』 を起稿。

(同書の執筆は1952年まで続き、全100巻の大著となりました。)

 


1941年12月には、東條英機首相の依頼で大東亜戦争開戦の詔を添削し、翌年には大日本言論報国会の会長に就任した彼は、1943年に文化勲章を受章。

しかし終戦後A級戦犯に指定され公職追放処分を受けると、
言論人として道義的責任を取るとして、文化勲章を返上したのです。

1948年に妻が亡くなり熱海で蟄居生活を送った蘇峰は、達磨画を描いたり 『近世日本国民史』 の執筆を行い、1956年6月まで読売新聞紙上に明治・大正・昭和の人物評伝 『三代人物史伝』 を寄稿。

そして
全ての資産を売却・寄付し終えた後の1957(昭和32)年11月2日、94歳で大往生を遂げたのです。

彼の思想はあまりに深く複雑で、とても私ごときが評論できるものではありませんが、その一端を覗きたい方には戦後60年の節目に出版された


徳富蘇峰 終戦後日記
『頑蘇夢物語』 (講談社学術文庫・刊)


       


のご一読をお勧めします。

同書は通常の日記と異なり、戦後百年経った時の人々を想定して書かれているそうですが、終戦直後の明日をも知れぬ中、これだけの思想を書き連ねていることに驚かされます。

国士と呼ぶに相応しい大物と言えましょうか。

さて余談ですが、彼の弟が 『不如帰』 で有名な小説家・徳冨蘆花であることはご存知の方も多いでしょう。


       


実はこの兄弟、すこぶる仲が悪かったんです。

一時は蘇峰が設立した民友社に入社し兄の下で修業した仲だったのですが、やがて兄の思想を巡って徐々に不仲となり、1903年に蘆花が兄に対する〝告別の辞〟を発表し、遂に絶縁状態に。

蘇峰は実名通りの徳〝富〟であるのに対し、蘆花はわざわざ点のない徳〝冨〟姓で通したことで、いかに対立していたかが分かります。

しかし絶交から四半世紀近く経った1927年、病床に付した蘆花と再会した際、蘇峰が

「お前は日本一の弟だ」

と声をかけると、蘆花も

「兄貴こそ日本一だ。 今までの事は水に流してくれ。」

と泣きながら訴えて周囲の涙を誘うと、臨終の際には「後のことは頼む」と兄に言い遺して亡くなったとか。


政官財界に多くの人脈を持ち言論界の〝巨人〟と言われた蘇峰ですら、兄弟関係はうまく行かなかった・・・人生は、なかなかうまくは行かないものです。


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